井上靖

崑崙の玉 桑と李という二人の若者が、于闐国が玉の産地であると聞き、その地に渡って良質の玉を手に入れて一攫千金を手にしようとした。二人は首尾よく于闐国に侵入し玉を手に入れたが、漢土の入り口である玉門関が閉ざされたことによって、遂に帰国できなくなってしまった。ロブ湖の水が伏流して黄河につながっているという説を信じる李は、ロブ湖に身を投じた。友を失い悲しむ桑とともに二人の消息は不明である。 盧という玉の商人は30人の胡族の土民を雇い、三人の若者と共に黄河の源に神仙郷を求め旅に出た。旅の途中に発見した大湖の畔で玉を捜そうとする三人の若者たちを諫め、盧は黄河の上流へ上流へと旅を続けた。ついに一行は黄河の源流の最奥部に立った。しかし、ここが神仙郷でもなく、玉の産地でもないと知った一行は、都へ帰るしかなかった。季節は冬を迎えようとしていた。一行が北京に戻ったと言う記録は残っていない。 世紀885年。ロシアの軍人の調査によって、ロブ湖の水が地下に伏流して黄河の水になるという、中国で二千年の間信じ続けられてきた説は否定された。